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表浜関連水質環境調査結果について (表浜海岸より:(株)環境総合研究所 /池田こみち)
汚濁した水域
汚濁した水域
第1回目の水質調査
加藤さん達との出会い
 今から2年あまり前の2000年6月、産廃業者による海への汚水の垂れ流しが気になっており地域住民も困っているので調査を行いたいとの連絡が入りました。その産廃処理業者(豊橋市A社)の排水処理施設横から流れでている排水を対象に、何を測定するかについて議論しましたが、測定項目の特定は難しいということから、30 項目の排水系の水質分析パッケージとPCBについて分析を行ってみることを提案しました。
ネットワークからは、業者が自ら測定している排水の水質データなどとともに、排水処理施設周辺の写真も送られてきました。航空写真や遠景写真では美しい遠州灘、表浜の海岸線が臨めますが、そこから少し入った内陸部に、その施設はありました。上からみたところ、その施設は、大小10以上の水処理? タンク、貯水槽などがぎっしりと狭い敷地に並べられており、その敷地横の排水管からは茶色や黒く濁った液体が容赦なく側溝に排出され、白い泡とともに、そのまま海へと流れ下っていく様子が写っていました。
事業者が公表している水質分析結果(一律排水基準:健康項目と生活環境項目)は、いずれも基準値を満たしており、問題がないことを強調するものでしたが、測定結果はあくまでも事業者が自ら実施するものであり、第三者性に乏しいこと、また、日常的に市民やNGOの監視している状況が極めて異常な状態であることから市民の側からの調査が必要であるとの結論に達して分析依頼がきたものと思われます。
第1回目の排水水質調査結果の概要
詳細は章末のデータを参照のこと。(ここで示す数値の単位は、p Hをのぞきmg/L)
 2000 年5月末に採取した排水を分析した結果、p Hは7.4とややアルカリ性を示し、塩素イオン濃度が高い(1040)ことがわかりました。有害物質(健康項目)については、微量ながら、総シアン(0.016)、水銀(0.009)、クロム(0.26)などが検出され、中でも、水銀については、排水許容限度(0.005)を上回っている点が気になりました。その他の汚染物質としては、銀(0.41)、チタン(0.20)、バナジウム(0.16)、などが微量に含まれていました。一般生活環境項目としては、亜鉛(0.55)、銅(0.30)、全燐(6)、全窒素(58)なども濃度は低いものの検出されました。特に、BOD 5(生物化学的酸素要求量:20℃の暗所で5日間培養時の酸素消費量)が437mg/Lと高く、排水基準(160mg/L)(省令、昭和46年総理府令第35号別表第二、但し排水量が50m3未満の事業場には適用しない)を上回っていることが明らかとなりました。なお、幸いなことに、本調査では、排水中からPCB(ポリ塩化ビフェニール類)は検出されませんでした。
【分析方法】
イオン類 EPA300.0、BOD APHA 5210 B、六価クロム EPA 7196、総シアン EPA 9012MOD、水銀 EPA 7470、その他金属類 ICP EPA 6010、PCB類 EPA 8081、p H APHA 4500H、フェノール EPA 9066、TKN(窒素)APHA 4500 これらは、米国環境保護庁による公定法及び国際的に用いられる標準的な方法である。
【分析機関】カナダ、オンタリオ州に本拠をおく民間分析機関Maxxam Analaytics Inc. (ISO/IEC Guide 17025 取得機関)分析機関の第三者性を重視するとともに、水質分析について豊富な実績とカナダ政府、オンタリオ州政府の規制に基づく詳細なパッケージ分析サービスを提供していることが採用の理由の一つである。
結果の評価
 事業者は、環境基準や排水規制基準(公共用水域への排水許容濃度)が定められた項目について年に1回自ら測定し、関係官庁に届け出を行っています。今回のA社の場合も、国や県の定めた法律、条例(上乗せ条例を含む)に沿った調査を行って行政に報告し、自社のホームページなどにも結果を掲載しています。しかし、こうした事業者による調査は自ら測定する日時を決め、測定分析業者に依頼して行うものであり、第三者性に乏しいものです。排水の水質は、どのような汚染水を、どのように処理しているかによって、日々刻々と変化するものであり、年に1回の測定がその産廃業者の日常的な廃水処理の実態を反映するものではなく、従って、その結果によってのみその事業者の操業が適正であるとは言い切れません。
 当時、私たちが見せていただいた写真に写っている排水の色も茶色だったり黒かったり、無色透明だったりしていて一定ではありません。その施設がどのような状態の時の測定結果なのかが重要になってきます。当時、採取された排水試料は、事業者であるA社が意図的な関与をまったくしていない試料であり、その中には環境基準や排水基準が定められた項目以外にも多様な金属類や汚染物質が含まれており、直接海域、すなわち公共用水域に流される処理水としては水質だけでなく、色や臭いなどの面からも好ましくない状況であったことが伺えます。特に、日本における水質環境基準項目や排水規制項目は、項目数も限られており、その項目だけを監視していたのでは実態は把握できません。また、当時は市民からの訴えも多く行政に寄せられたようですが、県や市はそうした地域住民の日常的な監視に基づく訴えに耳を傾け、適切な指導や監視、規制を行う義務があります。またそれだけでなく、こうした業者による環境汚染が未然に防止できるような措置を講じる責務があったと思われます。
その後の調査
 行政による事実関係は認められなかったものの、その後、A 社の排水は比較的きれいな日が多くなり、汚水が流れているところを目撃される回数もめっきり減りましたが、依然として海水の濁りや不気味な泡が各地で目撃されたり、体の異常を訴えるサーファーが後をたたなかったため、他にも汚染源があるのではないかと、2001 年5月、ナガラミが死んで打ち上げられた日の赤羽根町における茶色い海水と、豊橋市の河川水を採取して分析することになりました。沿岸流の上手には新居町・湖西市・豊橋市・田原町が隣接していますが、浜名湖以西の遠州灘海岸で赤羽根までには豊橋市以外には表浜にそそぐ河川はありません。サンプリングは地区住民やサーアァーの協力を得て、ネットワークの有志が行いました。分析を行った試料は次の通りです。
@試料種類(試料番号)
【海 水】
海水A〜海水B(ERI-626〜ERI-627) :赤羽港突堤の横で採取、いずれも海が真っ茶色に濁っていたい時に採取したもの。豊橋の産廃施設からは15km程度離れている地点。
【河川水】
河川水 KL(ERI-636〜ERI-637)
A分析項目
上記の12検体については、49項目水質パッケージ分析* 総PCB、総シアン、六価クロムの全52項目について共通の分析を行いました。PCB類を除く51項目水質パッケージ分析(Aquapack + Aquapack A + Aquapack B)の項目は以下の通りです。
これらの項目は必ずしも日本の環境基準や排水基準が定められた項目ではありません。産廃業者の敷地内に立ち入ることができない地域住民が周辺の環境汚染の状況から施設内の汚染の実態あるいは違法操業の実態を探ろうとするものであり、より総合的に幅広い視点から水質を分析し、相互に比較しながら評価を行うことがその目的です。
【分析方法】
先の調査同様、上記水質分析に用いられた方法は、標準分析手法、APHA 2320 B, 同2120,2510, 4500,4500H, 4500 PE, EPA 7196, EPA 9012 MOD, EPA7000 Series, EPA 6010, EPA 9060などであり、アメリカ環境保護庁による公定法及び諸外国が標準的に採用しているものである。
【分析機関】カナダ、オンタリオ州に本拠をおく民間分析機関
Maxxam Analaytics Inc. (ISO/IEC Guide 17025 取得機関)
水質分析結果の概要
上記の結果について、検体試料の種別ごとに比較を行ってみました。
【海水系】
 渥美半島外側(遠州灘側)に面する赤羽漁港突堤の東側から採取した2検体の海水は、どの分析項目についてもほぼ同じレベルにあり、大きな違いは見られませんでした。ただし、一部、水の腐食性を示す指数であるランゲリア指数(参考1を参照のこと)が海水AとBでは23倍程度の差が見られたほか、アルミニウム、銅、鉄、マンガン、モリブデン、タングステン、ビスマスといった金属類はいずれも海水Bの濃度がわずかながら高濃度となりました。PCB類については定量下限値未満(不検出)となりました。アルミニウムについては、一般海水の濃度は0.011mg/L(科学博物館資料)程度とされており、それと比較すると海水Bの濃度は極めて高いことになります。そのほか、銅、鉄、マンガン、モリブデン、亜鉛、アンモニア性窒素などの項目はいずれも一般の海水中濃度に比べて特に海水Bの濃度が高くわずかながら汚染のレベルに差が見られました。この地域の海水の汚染の原因が何であるかについては、一回の調査結果から直ちに言及できません。海流・潮流、海底地形による影響、気象による影響などとともに発生源の影響も受けるため、どこからどのように流れ到達しているかについては海岸線を常時監視するか、高度なシミュレーション調査を行わなければ解明できないからです。ただし、今回調査した海水が通常の汚染のない海水が含んでいる各種金属イオン類の濃度と比較して若干高めの濃度を示した項目があったことは間違いありません。
【河川水系】
 河川水系も2検体を分析しています。両者を比べると河川水Kは河川水Lに比べて28の項目で濃度が高く、しかもおよそbの二倍程度の濃度になっている点が注目されます。河川水Lの方が濃度が高かった項目は、アルミニウム、鉄、総燐、銀、チタン、オルトリン酸などのごく限られた項目となっています。両サンプルのpHは7.76、7.65とほぼ等しく、両者ともランゲリア係数がマイナスの数値を示しており、侵食性が高いことを裏付けています。
 重要な点は、これらの河川水がどのように利用されているかにもよりますが、総シアンや鉛、カドミウムなど毒性の高い重金属類も微量ながら検出されており、継続的な監視が必要です。特にシアンは公共用水域の環境基準(健康項目)では「検出されないこと」となっており、仮に飲料水の水源となっていたり、地下水を飲料水として利用している集落などがある場合には重大な問題を引き起こすことが考えられます。
 河川水Kと河川水Lの採取地点の違いやその時に発生源の稼働状況などから総合的な判断が必要ですが、少なくとも周辺に産廃処分場以外の発生源がないとすれば、それらの事業者に対して第三者による調査をし、早急な対策が必要と言うことになります。
 以上、2001 年5月に採取し、同年7月に結果がわかったこれらの水質4検体の分析結果は採取者の、安全とデータの信憑性を確保するために調査が極秘に行われ、採取地点や採取時の状況、発生源の状況などについて十分な情報が公表されていないため、東京に住んでいる我々では評価が極めて難しく、安易な結論を導くことはできませんが、少なくとも、次のことは言えると思います。
 汚水が河川に流入し沿岸水質を悪化させている可能性が高いこと、それは遠く15kmも離れた渥美半島の赤羽漁港にまで到達している可能性があります。
ひとつひとつの処分場が自主的な調査によって排水が基準値以内に管理されていると報告していても、豊橋市やその周辺の遠州灘、三河湾沿岸には多数の産業廃棄物処分場や処理場が立地していることから考えれば、それらの操業による累積的な影響は地先海域の生態系に対し相当なダメージを与える可能性があります。また、赤羽漁港周辺や遠州灘でサーフィンやダイビングなどマリーンスポーツを楽しむ人々にとっても、海水や魚介類を通じて影響を及ぼさないとも限りません。
 今後とも、行政に対して適切な業者の監督、指導、規制を求めるとともに、同地域一帯の総合的な調査の実施を求めていく必要があると思います。今回報告させていただいた他にもネットワークではコノシロやボラ、ムラサキイガイ等のダイオキシン分析をおこなっており、機会があればみなさんの目にふれることもあると思いますが、外洋に面している表浜も他の閉鎖性水域より拡散しやすいだけで確実に汚染が進んでいますので継続した調査が必要です。
参考1
○ ランゲリア係数(水の侵食性)
 pH値が低いと鉄管のような金属類,コンクリートなどの施設を腐食溶解することが多い,水が侵食性かどうか知るにはランゲリア指数を求め,その値が負であるならその水は侵食性である。
【ランゲリア指数の求め方】
水のpH値,カルシウムイオン量,総アルカリ度,溶解性物質量から次式によって求める。
ランゲリア指数=水のpH値-pHspHs=8.313-log(Ca2+)-log(A)+SCa2+:meq/L・・・Ca2+mg/L÷(40.1÷2)A:総アルカリ度meq/L・・・総アルカリ度mg/L÷(100÷2)S:2√μ/(1+√μ) μ:2.5×10-5sd sd:溶解性物質(mg/L)
(ただし,上記式は25℃の値であって,温度1℃上昇に対してランゲリア指数は1.5×10-2 増加する)
平成14年度表浜ネットワーク発行「表浜海岸」より
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